中核市移行で行政サービスが進化、八王子市・越谷市に学ぶ
中核市八王子市・越谷市視察レポート
2016年11月11日 公開
松戸市が中核市移行の検討をはじめて早、数年が経過しています。地方分権改革が叫ばれるなか、中核市移行にはどのような意味があるのでしょうか?
市民にもっとも近い基礎自治体として全国的な流れを確認するため、また、これからの中核市移行への考え方と理解を深めるため、直近一年間で中核市への移行実績を有する東京都八王子市と埼玉県越谷市を視察しました。
知っておこう政令指定都市と中核市の違い
都市の規模が大きい市において、行政サービスがより住民に行き届くために、県が行っている事務の一部を移譲し、より多くの業務を取り扱えるようになった市が、政令指定都市や中核市です。その違いは、都市の規模というのが大きな違いで、移譲される業務なども異なります。
政令指定都市
大都市特有の行政ニーズに対応し、総合的な行政運営を行えるようにするため、1956年(昭和31年)に誕生しました。政令指定都市は都道府県が行う事務の多くを独自に扱うことができます。原則として人口50万人以上が指定要件であり、条例によって行政区を設置することができます。
横浜市や名古屋市、大阪市といったいわゆる大都市が該当し、2016年4月現在20市が指定都市となっています。千葉県では千葉市が1992年より政令指定都市となっています。
中核市
規模や能力が比較的大きな都市(人口20万人以上の要件を満たす政令指定都市以外の都市)において、都道府県で行っている業務の多くを取り扱えるようになる市のことです。行政はできるだけ住民の身近なところで行うという地方自治の理念を実現するために、2000年(平成6年)の地方自治法改正により創設された制度です。移行に伴い、県から市へ2,000項目を超える事務が移譲されます。
2016年4月現在47市が中核市となっており、千葉県では船橋市(2003年より)、柏市(2008年より)が中核市です。
市民への周知に時間をかけた八王子市
東京都八王子市 都市戦略部 立川寛之氏より、中核市移行の経緯や移行期間におけるさまざまな検討事項等や都下自治体ならではの財政課題等についてご説明いただきました。
「きっかけは市長の公約で、自らの判断と責任に基づくまちづくりを実践するために中核市へ移行しました。移行の準備期間は3年。市民への周知を丁寧に行ったため3年を要しましたが、実質的には2年でも移行自体は可能でした。中核市移行後に移譲される事務事業のうち12~13%が都の上乗せがかかっていたため、都との交渉、積み上げに人と時間を要しました」
「中核市移行というと、事業者メリットが考えられがちですが、市民への周知に時間をかけたことで教育・環境・福祉への理解の深まり、広がりが得られました。今後は、さらにこうした権限をもって独自施策に反映できる職員候補が、八王子市に集まるようにしていけるといいと考えています」
中核市移行後に移譲される事務事業は都道府県が独自の条例を制定して、更に多くの事務権限を移譲することも可能です。他の道府県では、3~4%の事務量を上乗せするのが一般的ですが、八王子市は12~13%。都下自治体ならではの苦労といえるかもしれません。
八王子市の中核市移行の流れ
- 2007年(平成19年)東京都初となる保健所政令市へ移行
- 2011年(平成23年)景観行政団体へ移行
- 2015年(平成27年)4月1日:中核市へ移行
中核市移行の効果
行政サービスのスピード対応や条例制定権を得たこと。そして事務手数料収入増が目に見える大きな効果です。ほかにも以下のような効果が見らているそうです。
- 審議会等へ地域に密着した人選が行えている。
- 文化財認定、屋外広告物、宅地開発許可、相談・許可・指導・監督の一元化。
- 身体障害者手帳に関する申請の受理、審査、交付の一連の事務が一元化により1ヶ月半から2週間まで短縮。
- 不法投棄への相談にも警察と連携し速やかに対応できる。
- 特別養護老人ホーム・養護老人ホームに、利用者の尊厳保護のため、施設職員の虐待防止研修の受講、成年後見制度の活用支援義務付けた市独自基準の設定を行う。
- 県費負担の教職員に対し、八王子市の歴史や地形など含めより市民ニーズを反映した質の高い授業実施のための研修が好評。
中核市移行で市の財源は? 埼玉県越谷市
埼玉県越谷市 市長公室 政策課 山崎喜久氏より、中核市移行の経緯や移行期間におけるさまざまな検討事項等についてご説明いただきました。
歴史的経緯は異なるものの、越谷市も移行のきっかけは八王子市と同様に市長公約だったそうです。
中核市移行後の行政サービス内容や組織改編などについてのお話をうかがいました。また、議会対応については全員協議会を2回開催など詳しいご説明をしていただきました。
さらに、しばしば課題として議論にのぼる市財政への影響について(歳出・歳入)は特に時間をさいてお話しいただきました。
中核市移行に伴う財政へのインパクト
中核市となって、事業権限が増え、事務業務が増えるということは、人件費をはじめ多くの経費が増加することを意味します(移行に伴う一般財源の所要額)。この経費は歳入と歳出の差額で算出することができます。
越谷市は2012年度(平成24年度)決算をベースに増加するであろう経費を想定しました。
上記のように、実際の経費は想定ほどかからずに済みました。しかしながら、これは、中核市移行と同時期にスタートした子ども・子育て支援新制度の影響で、保育関連の補助金がついたため、当初減額を想定していた県支出金がそれほど減額されなかったという要因からきたものです。また、また2015年度(平成27年度)は消費税増税が平年化した年度のため財政が改善されたイレギュラーな年でもあり、市財政への影響は2016年度(平成28年度)も注視していく必要があるそうです。
また、これらの財源について山崎氏は、普通交付税における基準財政需要額の増加により財源保障されているものと考えているそうです。
なお、上記の金額には中核市移行準備にかかった費用は含まれておらず、2011~14年度(平成23~26年度)の4年間でおよそ28億円だということです。
山崎氏は中核市へ移行することについて次のようにおっしゃっていました。
「中核市の人口や面積要件が法改正により緩和されました。埼玉県では川口市も中核市の候補市として名乗りをあげています。県としては、県下市の中核市化を後押しする傾向にあります」
「自治体から国へ要望を上げる場合は、一般市であれば、一般市長会約1700のうちのひとつとして要望を上げられるだけです。しかし中核市になれば、一般市長会として要望を上げることはもちろん可能ですし、中核市長会47のひとつとして行うこともできます。「1700分の1」と「47分の1」この差は大きいと言えます。こういった事情から、視察にくる自治体は増加傾向にあるようです」
福祉の充実・防災の観点からも中核市は有効
八王子市、越谷市ともに、民生委員審査・障害福祉、地域福祉、高齢者福祉、児童福祉の5分野の一元化として社会福祉審議会設置を中核市移行時に行っています。社会福祉審議会は地域の少子高齢化課題を横串、横断的に発見、共有、解決へ結びつけるプラットフォームです。
防災・減災の観点からも中核市移行の意義はあります。実効性のある大規模・小中規模防災訓練の実施や家族への連絡手段、備蓄確認、液体ミルク等々、いざ災害が発生した際にも、スイッチひとつで災害対応できる体制を構築することができます。
さらにその先の地方自治、都市の形、権限委譲を実現していく上でも中核市は鍵となると言えるでしょう。松戸市が検討をはじめてはや数年が経過しています。移行実績自治体によると、松戸市は、保健所機能を有していないため移行候補市となってから4年は要するとのことです。地域に住まう一市民としては応援したい取り組みのひとつです。